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山口市が「2024年に行くべき52ヶ所」に選出されたことから見えてくる「新しい観光」

ニューヨーク・タイムズが「2024年に行くべき52ヶ所」の3番目に山口県山口市を選出し掲載したことは、日本国内でも大きなニュースとなりました。

“行くべき旅行先 52か所”に山口市 ニューヨーク・タイムズ (2024.1.11. NHK)

このことについて、山口市出身の noteプロデューサー/ブロガー の 徳力基彦(@tokuriki) さんも記事を書いており、山口県が「都道府県魅力度ランキング」でも常に下位にランク付けされていることや、山口市民でさえも「(山口市には)何もない」という評価をしていることなどを紹介する一方で、

実は「2024年に行くべき52ヶ所」のランキングは投票形式ではなく、この企画を担当した 編集部が、旅行系のライターやジャーナリストから寄せられた推薦情報をもとに作成している という仕組みも紹介してくれていて、山口県民にとっては「だよね」と「なるほど」が詰まった内容になっています。

世界3位に選ばれた山口市に学ぶ、日本人が忘れがちな日本の魅力の伝え方 (2024.1.15. Yahoo!ニュース)

つまり今回の山口市の快挙の裏には、ニューヨーク・タイムズの編集部に対して、山口市を強力に推薦してくれたライターさんがいたということなんです。その推薦が編集部の共感を得て、実質「世界3位」というような位置づけで紹介された、と。

この「山口市推しのライターさん」は、アメリカ在住の クレイグ・モド さんという方で、なんと昨年は盛岡市を推薦しており、同市を2番手にランキングさせた立役者とも言える人物です。

モドさんは今回も山口市の魅力を、具体的な観光スポットを挙げるなどしてかなり詳しく推してくれていたそうなのですが、徳力さんが「一番分かりやすい」として特筆していたのが、

「山口市は西の京と呼ばれ、京都に比べて「観光公害」はかなり少ない」

という点で、つまり山口市がオーバーツーリズムに陥っていない、ということです。

これは日本の古都を旅して、日本の文化の神髄に触れようと考えた場合には非常に重要なポイントになると思います。

例えば京都の「竜安寺の石庭」。枯山水の庭に配置された15個の石を縁側から眺めると、どの角度から見ても15個のうちのひとつが隠れて見ることができない、という場所ですね。

本来であれば、ひとりで静かに縁側に座して、石を眺めたいところだと思いますし、旅行ガイドを見た人は誰もがそうすることをイメージして竜安寺に足を運ぶでしょう。

しかし実際は、縁側はたくさんの観光客であふれ、ザワザワといろいろな言語と写真を撮影する音が飛び交い、とても落ち着いて座っていられる状況ではないのです。

では、山口の瑠璃光寺 五重塔はどうでしょう。
今回のことで今後はどうなるか分かりませんが、わたしが前回訪れた際は、ウグイス張りの石畳 で手を叩いて チュンチュン と甲高く鳴る反響に耳を澄ませ、ゆっくりと境内を散策し、京都・東寺の直線的な五重塔とは雰囲気の異なる、美しいカーブを描いた五重塔の屋根を、池越しに、山を背景に眺めることができました。これは、「何もない」山口市だからこそ満喫できたと言えるのではないでしょうか。

わたしはメルボルンでの1年間のワーキングホリデー、アメリカ・ワシントン州のスポケーンで約4週間(2週間×2回)のホームステイ を経験したことがあります。

その時に現地の人たちの余暇の過ごし方を一緒に体験して、日本とはずいぶん異なるカルチャーを感じました。

それはまず「のんびりする」、「ゆっくりする」、「何もしない」、ということを楽しむというカルチャーです。

ビーチに行っても、特に何をするわけでもなく、マットを敷いて昼寝をしたり、サングラスをかけて本を読んだり…。
「ピクニックに行こう」ってよく誘われましたが、サンドイッチを食べて、ワインを飲んで、後はひたすらおしゃべり…。

欧米ではバケーションを何ヶ月もとったりするのが当たり前だからでしょうか。1泊2日でギッチギチに観光を詰め込んで、分単位でスケジュール立てて…っていう日本の観光旅行とはちょっとスタイルが異なります。

スポケーンでは、ホストファミリーに「シン、おまえ日本人だから温泉好きだろ?カナダの温泉に行こう!」って、車で国境を越えてロッキー山脈のしっぽ辺りのスパに連れて行ってもらったことがあります。何時間もかけて到着した小さなホテルで、鍾乳洞のような広い混浴の温泉に水着で入り、子どもたちを遊ばせて、雪を冠した山々を眺めて…ってことを翌日の昼まで何度か繰り返して、またどこにも寄らずに帰ってくるという週末を過ごしたのですが、きっと彼らはこれを「旅行」とは捉えていないでしょう。

週末をカナダで温泉に浸かって過ごしただけ

徳力さんが引用されていた記事とはまた異なる記事で、山口市の方が

「山口市の観光地なんて半日で回れてしまう。観光客が暇を持て余してしまうのでは…」

と心配しているというインタビューが掲載されていました。

「記事を読んで青ざめました…」米NYタイムズ紙「2024年に行くべき52か所」に選ばれた山口市民に広がる“声に出せない不安”(2024.1.15. 集英社オンライン)

むしろ逆で、「それがいい」と評価されているんですよね。(瑠璃光寺 五重塔が改修中なのはヤバいけど)

それでもどうしても心配なら、ウェルネスツーリズムを取り入れた、瞑想とかヨガとか、そういう体験とナチュラルな食事を組み合わせたツアーをデザインしたら、きっとインバウンドの観光客のニーズにマッチするんじゃないかな…と思った次第です。