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2018年4月1日の浜殿祭に向けて、鰤切りの練習が始まりました。保存版ってくらい解説します。

INDEX

  1. 2018年は浜殿祭イヤーです
  2. 朝生自治会では、ちょっとしたイベント扱い
  3. 所作に残る風俗
  4. 自治会長が語る、鰤切りの由来
  5. 所作解説、これが鰤切りだ!
    1. 全部とおすとこんな感じです。
    2. ブリを運んで来てくれた海の人に挨拶
    3. 介添人によるまな板の確認・調整
    4. 裃をはだく
    5. ブリに串を打つ
    6. ブリの向きを変え、まな板に戻す
    7. ブリの頭を落とす
    8. ブリの頭を起こし、のしを挟む
    9. ブリを下ろす
    10. ブリを3つに輪切りにする
    11. 道具を元に戻す
    12. 介添人に手伝ってもらって裃を直す
    13. 海の人にブリを渡す
  6. ちなみに、よく言われる都市伝説、ブリの味付け編

2018年は浜殿祭イヤーです

浜殿祭について詳しくは過去の記事

浜殿祭(浜出祭)  700年以上続く、元寇に由来するお祭り。山の神と海の神のデートではなかった!

をご参照ください。
7年に1度のこのお祭りで、私は「鰤切り神事」という神事を行う役を仰せつかりました。

この祭りのそもそもの由来は、古来元寇による蒙古軍を、敵の大将を討って退散させたものの、蒙古軍の兵士の悪霊が8年に1度、力をつけて災厄をもたらそうとするので、7年目ごとに我々の力を見せつけて鎮めさせるということです。壮大な行列を為して敵の大将を討った山の地区から海の地区まで練り歩きます。

鰤切神事とは、その祭りの最後に行われる、敵の大将に見立てた大きなブリを直接手で触ることなく頭を落として捌き、「これ見たか!」と我々の力を悪霊に見せつける儀式で、お祭りの由来を考えると非常に重要な儀式であると言えます。

この鰤切りを、11月に行われる地元の神社の秋祭りで披露しましょう、ということになり、来年の浜殿祭で鰤切りを行う3名のうち、経験のある坂本さんにお願いすることになりました。

それで今日は、秋祭りに向けての坂本さんの練習を、今回はじめて鰤切りを行う私も見学しておきなさい、というコトになったワケです。

朝生自治会では、ちょっとしたイベント扱い

練習が行われる朝生自治会館につくと、ブルーシートを敷いた床の上に、本番同様、ゴザとまな板が置かれていて、結構なギャラリーが集まっていました。ごく少人数で行うものと思っていたので少々驚きです。

本番では、紋付袴に裃を着けて行いますが、今日は裃だけ着用します。
ギャラリーも皆、ワクワクしています。

自治会のベテランお祭り男先輩による指導が行われます。
熱血指導です。そしていろんな方向から声が飛んで来ます。

今回の鰤は練習なので4〜5kgとのことですが、本番では10〜15kgのものを、海の地区の人たちが準備するそうです。
ブリがヌメっているとやりにくいそうで、事前に拭いています。

ちなみに、今日のブリは届けられた時に手違いでエラが外されていたそうです。頭を落として立てる所作がありますが、その際に安定しなかったり、影響があるそうです。
本番では丸々の、全く処理をされていないブリを使用するとのことでした。

所作に残る風俗

ちなみに、山の人たちが鰤切りを行うのですが、さっき触れたように、ブリと捌く道具はは海の人たちが準備します。

神事の始まりは海の人たちが、座って待つ山の人たちの前に、まな板にのせたブリと包丁・箸を持って来るところから始まるのですが、下の写真が、海の人たちが持って来る包丁と箸です。

10kg以上のブリを切るっていうのに、果物ナイフみたいな包丁を持って来るのです。
ブリに突き刺して片手で持ち上げるための箸も、木でできたごく普通の箸です。

ここに、山の人たちと海の人たちの仲の悪さが表れているそうです。

海の人たちは、わざと切れない、小さな包丁を用意して、山の人たちが失敗したり困ったりするところを期待していたのだそうです。
これに対し、山の人たちは、自ら大きな出刃包丁と鉄の串を持参して、着席した際に袴の裾に隠しておき、いざ神事を始める際に、スッと道具を入れ替えて、何食わぬ顔をして鰤切りをして見せたとか。
これが現代にも所作として残り、わざわざ道具を入れ替えるところが正式な儀式として伝わっています。

映画「アウトレイジ」で、詫びを入れに来たヤクザが「指詰めてやるから道具持って来い!」と啖呵を切ったところ、工作用のカッターナイフを出され、「こんなモンで指詰めれるかよ!」と怒りますが、相手に「なんだよできねーのかよ⁉︎」と煽られて「やってやるよバカヤロウ!」とカッターナイフで指を詰めるシーンがありました。状況は異なりますが、その場面を思い出しました。

自治会長が語る、鰤切りの由来

冒頭に紹介してしまいましたが、集まったギャラリーの皆さんに、岩本自治会長が鰤切りの由来を詳しく説明されました。

所作解説、これが鰤切りだ!

全部とおすとこんな感じです。

それでは、ひとつひとつの所作を解説します。

ブリを運んで来てくれた海の人に挨拶

礼をしますが、お互いに視線を切りません。
「やってみろよ」
「やってやるよ」
という無言のやりとりが聞こえるようです。

介添人によるまな板の確認・調整

鰤切りをする者はブリに触れることができませんので、まな板の位置の調整、安定性の確認などを介添人が行います。この時、箸や包丁がブリの下に隠れている場合がありますので、取りやすい位置にズラすのも介添人の役目です。

道具の入れ替え

用意された包丁と箸を手に取り、顔の前で確認します。
その後、それらをスッと袴の裾の下に隠し、同時に隠しておいた自らの出刃包丁と鉄串を取り出します。

裃をはだく

遠山の金さんスタイルです。
伝統的に、左側を左手ではだくという所作が伝わっていましたが、何十年か前、今日指導されたベテランさん(元•猟師)の先輩猟師が、ベテランさんの言うとおりやるのは気に入らない、はだけりゃ良ェんじゃ、と右手で左側をはだくスタイルに変えてしまい、それ以来この自治会では右手ではだくようになっていた、と聞きましたが、真実はわかりません。なにしろ今日、元のスタイルに戻ったようです。

ブリに串を打つ

側線の上辺り、ヒレを挟むような位置に串を打ちます。
グリグリと差し込むのではなく、勢いよくグッと一発で貫くのが格好良いとされています。

左手でブリを頭上に掲げ「これ観たか!」と叫ぶ
右手に持った包丁の峰でまな板を3度叩き、包丁をまな板の左から右へ滑らせる

これぞ鰤切り、というシーンです。
できれば重量挙げのように、一度低い位置でグッと溜めて、それから持ち上げると良いそうです。
包丁はゆっくり3回、まな板を叩きます。
そえから、ここには載せられない秘密を聞きました。それは将来鰤切りをすることになった方に伝承することにします。

ブリの向きを変え、まな板に戻す

包丁で支えながら、再びブリをまな板に戻します。
串の位置を打ちかえます。

ブリの頭を落とす

ヒレの少し後方を、断面がまっすぐになるよう切り落とします。

皮が少し切れずに残ってしまいました。
そんな時は出刃の切っ先を立ててゆっくり引き、皮を断ちます。

ブリの頭を起こし、のしを挟む

串と包丁でブリの頭を立て、包丁の先でブリの口をこじ開けます。
そこに介添人がのしを差し込み、立てます。
今日はブリのエラが取り除かれていて安定しなかったことと、ブリが小さくて口が十分に開かず、のしを奥まで差し込めなかったので、ペローンとなってしまいました。
本番ではモタモタせずに、介添人と息を合わせ、サッと済ませたいところです。

介添人がブリを触る時は、ブリに息がかからないよう、懐紙を口に咥えています。

ブリを下ろす

串を再びブリの体の方に刺し、頭から尻尾に向けて、腹側を下ろします。
串の周りを舐めるように包丁を滑らせ、最後はシュッと抜きます。

ブリを3つに輪切りにする

串を中央に、ブリを輪切りにします。

道具を元に戻す

使用した出刃包丁と鉄串を袴の裾に隠し、最初に用意されていた包丁と箸と入れ替えて、顔の前で確認します。まな板の前後に、最初と同じように戻します。

介添人に手伝ってもらって裃を直す

自分で手を伸ばして戻していたらみっともないですからね。
ありがたく、美しい所作です。

海の人にブリを渡す

涼しい顔をして、ブリを返します。
今度は海の人が大変緊張します。なにしろ、立っているブリの頭を倒さないようそーっと運ばなければなりません。当日の天候が穏やかであることを願います。

ちなみに、よく言われる都市伝説、ブリの味付け編

この後、このブリは海の人たちによって調理され、遠路旅して来た山の人たちに振舞われます。
古式に則って伝統的な味付けがされているそうなのですが…なんというか、マズいんです。
刺身に酒粕をまぶしただけ、という感じで、できればワサビと醤油で食べたいな…と毎回思っています。

これも鰤切りの道具同様、海の人たちによる嫌がらせで、わざとマズいものを作って山の人に食べさせ、困るところを期待していたのだ、と聞きます。

ただこれも、山の人サイドと海の人サイドで言い伝えは異なるかもしれません。
先に何か、山の人が無礼を働いて、報復を受けているのかもしれません。

現在、このような軋轢やシガラミは一切なく、伝統として残っているだけです。
単純に、興味深いね、面白いね、という話として楽しんだら良いのかな、と思います。

7年に1度ですから。

※ 本日練習に使用したブリは、この後朝生自治会の皆さんが美味しく召し上がられました。