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久しぶりの出猟で、やらかしたり、やったり。でもやっぱりやらかしてる。

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猟友会の巻狩りに参加しました。

ミーティング

普段は私の所属する猟友会と隣町の猟友会の合同で巻狩りを行っています。

皆さんに向けてご挨拶すると、隣町のベテランハンターさんに、

「七夕かァ!」

と突っ込まれてしまいました。「イヤー」と苦笑いしたんですが、どういう意味だったんだろう?多分「年に1回しか参加せんのんか!」ってコトだと思います。或いは、「ワシとオマエは織姫と彦星か!」なんですが、いろいろ渋滞してしまうので深く考えないコトにします。

1ヶ所目

沢の流れるポイントにシガキとして配置されました。
猟犬は私の立っている向きで正面からかかり、追われた獲物が斜面を下りて来るので、そこを撃ちます。

目の前には岩肌が見えているので、そこは獲物は下りて来ないし、岩に当たった散弾が跳ね返り飛び散る「跳弾」が怖いので発砲を避けます。また、沢に沿ってシガキが配置されているので、沢と平行に上流・下流には発砲しないようにします。

そうして岩の向かって左手か右手の斜面を下りて来るところを狙って撃つイメージを繰り返し、頰当ての練習をしていると、背後の頭上から猟犬の吠える声が聞こえました。

エッそっちからもかかってたの? って思い、キョロキョロしていると、しばらくして上流側から銃声が1発聞こえました。

すぐさま無線が入ります。

「やったかー?」

「シシやったどー、40kgぐらいじゃー」

1発で仕留めたようです。

それからしばらく待ちましたが、私のところには獲物が来ることはなく、先ほど獲ったシシは上流側から引き出せるので助っ人は必要ないとのコトで、私は他の獲物の引き出しを手伝いに行きます。

川の向こう岸で獲れたシシを、ロープで引っ張り、長靴で川を渡って、道路側の崖から引っ張り上げます。引っ張り上げるのには木の枝に滑車を取り付け、ロープを垂らしてシシと繋ぎ、軽トラで牽引しました。ベテラン猟師の軽トラの荷台からはなんでも出てきますね。

猟犬にトラブル発生!

シシの引出し・積込みを終え、一旦集合場所に戻ると、ベテランハンターたちがなにやらザワザワしています。

どうしたんだろうと思って近づくと、どうやら今の山で、猟犬たちが皆、アナグマに引っ掻かれて顔をケガしてしまったようです。

しばらくして猟犬を連れて勢子ハンターが戻ってきましたが、一緒にいる猟犬が3頭とも、顔に切り傷を負っています。1頭は鼻から口の周りが明らかに腫れていて見るからに痛々しく、かわいそうです。

アナグマは名前のとおり、穴を掘って中に潜んでいますから、猟犬が嗅ぎつけて顔を突っ込むと、鋭い爪でガリッと引っ掻くのだそうです。

午後は出動できる猟犬が少なくなるので、小さい山にしよう、という打ち合わせが行われていました。

猟犬も傍らでプルプル震えながら、申し訳なさそうにしていました。

お昼休み

11時過ぎ、少し早いですが「飯にすっぺ」ってコトになりました。

私は昨夜作ったシシカレー弁当です。シシを食べてシシ狩り頑張るぞ!とか言いながら、犬の何倍も嗅覚が優れているイノシシに、カレーの匂い、しかも仲間の肉の匂いは強烈すぎるのではってコトに薄々気づいていますが、まァ、犬に追われて必死コイて逃げてるトキには気づかないだろうとタカをくくっています。

(実際には強烈な匂いは猟にかなり影響してそうです。午前中に獲れたイノシシも、私の真上辺りを走っていたのですが、猟犬の気配にキョロキョロしていた私に気づいて、逃げる方向を変え、上流の方に飛び出したのではないか、とベテランハンターに指摘されました。獣の感覚の鋭さは、私の想像をはるかに超えているようです。)

シシカレーは圧力鍋でトロットロに煮た、角煮のような肉が入っているので、冷めると脂が固まって、ラードをかじっているような状態になり、とても食べられません。そこで今回はスープを保温するための魔法瓶に入れて、あったかいまま持ってきてました。寒いフィールドから軽トラの運転席に座って、温かいシシカレーをゴハンにかけたトコで気づきます。

スプーン忘れた

一瞬、思考が停止します。

しかし次の瞬間、学生の頃に仲良くしていたスリランカからの留学生、ルワンの笑顔が頭に浮かびます。

ルワン:「Shin、今日はチキンのカレーを作った。一緒に食べよう」

ルワンに倣って、本場のカレーを手づかみで食べさせてもらっていた想い出

ためらうコトなくインディアンスタイル(正しくはスリランカスタイルですが)でイきます。

昔「美味しんぼ」かなんかで見た気もするんですが、触覚も使って食事を楽しむのはよりおいしく感じられます。

人差し指から小指までの4本でカレーとゴハンをすくって口に運び、親指で押し出すようにして口に放り込む、初心者にもオススメのインディアンスタイル・イーティング・メソッドです。ルワン曰く、大人は手の甲が上に向いた、ゴハンを完全に掴むスタイルでも食べるコトができるそうですが、私は残念ながらそこまでのマナーを身に付けるコトができませんでした。

さぁコレで口からも右手からも、なんならカレーをこぼしたツナギからも、スパイスとシシの匂いが放たれていて、午後は私のところにシシが逃げてくる可能性は限りなくゼロに近づきました。

2ヶ所目

午後からは打ち合わせどおり、小さな山をグルリと囲む形でシガキが配置されました。

私は山の裾から田んぼを隔て、その田んぼを見下ろす小高い土手から、シガキを抜けてきた獲物を撃ち下ろすポイントにスタンバイです。地面がバックストップになるし、矢先の確認も容易で、ビギナーにもってこいです。

ほどなくして、私の正面の山裾から、勢子と猟犬が入山していきました。

山が小さいので、すぐに獲物を起こしたらしく、吠え立てる猟犬の鳴き声が聞こえます。猟犬の声が急に大きくなり、『近いな』と思った瞬間、イノシシの悲鳴が混ざって聞こえてきました。猟犬が追いついて噛みついたのでしょう。

イノシシの悲鳴は、聞いていて気持ちの良いものではありません。“ギィィィッ‼︎ギィィィッ‼︎ギィィィッ‼︎”と延々叫び続けているのが聞こえ、胃の辺りを握り潰されているような感覚になります。

思わず目を逸らすと、100mくらい後方にポツリとあるソバ屋から出てきた客が1人歩いて来て、道路から見物してるのに気づきました。

山中とはいえ、シシの声がここまで聞こえているのに、発砲したら、事情を全く知らない一般の方はビックリするんじゃないかしら…と心配していると無線が入り、勢子のハンターがナイフで仕留めたとのことでした。ホッと胸を撫で下ろしつつ、しかしどういう状況だったのか非常に気になります。

後で勢子ハンターに尋ねると、勢子3人がそれぞれ複数の犬を連れて山に入っていたが、その犬たち全員がカチ合った所にシシがいたそうで、7〜8頭の猟犬に取り囲まれ、そのうちの何頭かに噛み付かれ、シシは完全に身動きのとれない状態だったそうです。そこに飛び入ってナイフで仕留める“アラセヴ”ハンターのパワーは底知れません。

そして、その時は突然にやってくる

しばらくするとまた猟犬の吠える声が聞こえ、追いかけるように無線も入ります。

「会長の方に何か行ったどォ〜、気ィつけェよォ〜‼︎」

会長の斜め後方100mくらいの所に私がスタンバイしている位置関係です。
つまり会長の横を獲物が抜けて来ると、私の方向に…来る…!

土手の前方に歩み出て、会長がいる山裾の辺りに目を凝らしていると、思っていた位置よりかなり左手の茂みを、黒っぽい影がピョンピョン移動しているのが見えました。まだかなり遠いし、獲物を判別できていません。会長の位置からも恐らく茂みが邪魔でハッキリ確認できていないでしょう。

会長からの無線が入ります。

「Shinの方へ行ったど〜!」

しかし、まだ射撃できる距離ではないし、そもそも獲物が「おそらくシカ」というレベルです。発砲してはいけません。

すると獲物はクルッとUターンし、茂みを抜けて山に戻って行きました。茂みを抜けた所で白いフサフサした尻の毛と、後ろから立派な角を確認し、シカと判別できました。正面から見ると、走っているシカの角ってなかなか見えないモンなのかな…。それとも冷静に見られていなかったのか…。

「山に戻りました。シカでした」

と無線を入れ、また待機体制に戻ります。

その時は再びやってくる

獲物が途中で戻ってしまうってことは、やはり立っていると私の存在に気づいてしまうというコトです。しかし射撃できる位置に立つと、ここは土手なので、寄りかかる木がありません。(獣の目は白黒にしか見えないので、ピッタリ木に寄りかかってジッとしている人間は、獣には木と同化して見える)

「できるだけ動かないように努める」作戦しかなさそうです。

しばらく待っていると、3度目の猟犬の鳴き声が近づいて来ます。

「また会長の方行くぞ〜!気ィつけェよォ〜ッ!」

すると会長の方向とは完全に違う、ほぼ私の真正面の獣道からシカが飛び出して来て、田んぼのあぜ道を駆け抜けようとしています。

“オオォオ〜来た!狙え、構えェ…!”

ここの決心が恐らくベテランのハンターより私は一瞬遅いです。“狙って良いのかな?”というコトが一瞬ハッキリ頭をよぎる分、動作が遅れます。

猟銃の照星をシカに向けた時には、シカはあぜ道を中程まで進んでしました。

ドンッ!

“当たったか?イヤ、まだ走る!マズい向き変える‼︎早く二の矢!”
(ンッ 首から血が出ているように見えるぞ…?)

ドンッ!

“迷った!失中か!あ〜、Iさんの方へ行った!後はIさんに任せるしかない…”

パーン! パーン!

Iさんは私の左手、更にもう一段高い田んぼのあぜ道に構えていましたが、ここで2発失中…!再び方向を変えたシカに私がもう1発放ったところ、これまた失中し、シカは私とIさんの間を抜け、ソバ屋の方へ走って行きました。
少し後ろから、猟犬が2頭追いかけて行きました。

アァ…外した…。
しかし、もし1発目の弾があたっていたとしたら、コレは半矢です。獲物に痛い思いをさせ、もしかしたらこれからジワジワ苦しめて人知れず息絶えさせてしまう可能性もあり、心を痛めます。ハンターとしては全くの失中より良くない結果です。

しかし、首に中っていて、あんなに元気良く長時間走り続けるだろうか…というコトも考えると、完全に失中の可能性もあり、半矢か失中か、どちらなのかも分からず、悶々と待機です。だんだん気分が滅入ってきます。

猟犬が教えてくれた結末

失意の中、その後は獲物が現れることもなく、終了しました。

目の前の獣道から山裾に出て来た勢子ハンターさんが、土手にいる私に大声で伝えようとします。

「お前の撃ったシカのォ、アレ中っとるんかもしれんぞ、犬が追ってったまんま帰って来んわァや」

先輩勢子ハンターは、これからGPSを頼りに、猟犬の回収に向かうそうです。

その間に、先ほどのナイフで仕留められたシシを引き出しに山に入ります。
会長のロープをシシの口から鼻に掛け、2人で引き出します。

軽トラに積み込むと、先ほどの先輩ハンターが戻って来て、私が撃ったシカには、私の放った散弾が恐らく命中していて、必死で走ったものの、隣の山中の崖のような所でいよいよダメになり、崖から落ちたようだ、斜面の途中で引っかかっているが、猟犬が肉から尻尾から台無しにしているし、かなり山の奥でしかも急斜面なので引き上げられないと教えてくれました。

輪をかけて最悪です。本当は、回収できない獲物の死体は、山に埋めるなどの処置をする必要があります。今回は埋めることもできない。危険なことなどが事情ではありますが、なんとかしてやりたい気持ちがモヤモヤとしています。皆での巻狩りなので、自分から先輩ハンターに、「それでも引っ張り出して埋めましょう」とは言えず… 本日の巻狩り終了です。

解体。そして恐らく猟期終了寸前あるある

解体場に移動し、本日捕獲し、無事に回収できた獲物を解体します。
シシが4頭、シカが2頭です。

ウチの猟友会の解体場には、土日には県内の国立大学医学部の先生と学生がやってきて、研究に必要なサンプルを回収して行きます。今回もそうして、各種サイズ測定を行い、内臓を持ち帰っていました。

それぞれに今日1日の反省や武勇伝を語りながら、まさに「山分け」の肉が積まれていきます。

解体場を片付け、帰りにひとりずつ肉が分けられますが、この時期になると、11月から毎週のように猟に参加しているハンターたちは、もう自分では食べまくっているし、ひととおり知り合いにおすそ分けも配っているしで、自宅の冷蔵庫や冷凍庫がジビエ肉でパンパンという人も少なくありません。

そうなると、特にシカ肉は「オイ、お前シカ食べるじゃろ、コレ持って帰れ」と、自分の分け前をゴッソリくれる先輩ハンターがいます。

そうして今日は本当はシカ・シシそれぞれ1袋ずつの分け前のところを、私は2袋分ずつを持ち帰りました。

持ち帰ってあげられなかったあのシカを偲び、射撃技術の向上を誓って、おいしくいただこうと思います。