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猟師の油断大敵

平成27年12月30日…完全に油断してました。

妻は今日から年末年始の休み。家の大掃除をしっかりやるぞ、まずはリビングの電球取り換えね‼︎
…と意気込みながら二度寝の真っ最中でした。

「ちょっと、ねぇ、ピンポンって鳴ったよ」
と妻に揺り起こされ、目を擦りながら玄関に出ると、自治会長…?まさか…‼︎
自治会長は、言うなれば私と同期で、今年が若葉マークの新米猟師です。
今年、私は第一種銃猟免許、自治会長は罠猟の免許を取得したばかりです。

「早くにスマンな、例の、ワシの罠にな、シシが3頭入っとるんじゃ。ちょっとアンタ手伝ってくれんか…」

「解体はどうしてんです?(猟友会の)解体場は使えるんですか?」

「イヤ、ワシの農場があるけぇソコでせんといけんじゃろう。ジビエセンターの電話するが今日はやっとらんみたいなんよ。止めさしよくけぇ、来れりゃー来てィね」

猟師はこういう依頼を断るモンではありません。
社会的に歓迎されない猟銃を所持しているのです。できる限り、周りの方の役に立てるものならば、積極的に出動したいと思っています。
自治会長が帰ってから、心配そうに出て来る妻に事情を告げ、そそくさと着替えてナイフを持って出動します。
通例として、箱罠に掛かった獲物を猟銃で止めさしすることは違法とする見解が有力です。
この時、あんまり慌てていたもので、ケータイを寝室に忘れて出掛けてしまっていました。帰宅するまでの写真がありません。
思いがけず長丁場になってしまったのに、妻に状況を連絡できず、作業しながらもずっと不安がつきまとう落ち着かない出動になりました。

 

罠のある現場に着くと、既に箱罠の中に、15〜20kgくらいのまだ小さい2頭のイノシシが横たわっていて、自治会長と、初めて見るおじいさんがふたりで、他よりひと回り大きい、残る1頭のイノシシを槍で突こうとしていました。
近所の人が10名くらい見守っていて、中には年末で帰省した幼馴染の子供たちの姿も見えて驚きました。
興味を持って真剣に見てくれると良いな…、トラウマになったりしないよな…

かく言う私も、イノシシの止めさしに立ち会うのは初めてで、前回同じ罠に入ったシカの止めさしも先輩ハンターがするのを見て、何度も目を背けて思わず念仏を唱えていた次第です。自分は散弾銃でズドンと一瞬で仕留めてしまうくせに、と私自身でも思うのですが、それでもやはり、槍で突かれた獲物が弱り、絶命するのを目の当たりにするのは、決して気持ちの良いものではありません。殺生し、その生命をいただくことに違いはないのですから、できるだけ手早く、できるだけ苦痛を与えずに仕留めてやれるよう、猟師は日々訓練しなければなりません。

結局、罠に入った3頭目のイノシシを仕留めるのに、相当の時間を要しました。
描写するのが良いのか悪いのか分かりませんが、シカは槍で突かれても鳴き声を上げません。しかしイノシシは悲鳴を上げます。今回、慣れない自治会長の槍を受けて、イノシシは断末魔の悲鳴を上げて苦しみました。そこをすかさずおじいさんがイノシシの頭蓋骨を貫く一撃を加え、魚の神経締めの如く止めをさしました。
後から聞けばこのおじいさんは永く罠猟をされていて、事情があって今年度は免許を更新できずご自身の罠を掛けることはしておられませんが、仲間の罠に獲物が掛かったら、捌くのを手伝っておられるそうです。

シシが動かなくなったコトを確認し、箱罠を開けました。
いち早く箱罠の中に身体を入れ、シシの脚を掴んで引き摺り出します。
その様子を見て、近所のレジェンド的な”オィさん”が「シンちゃんも段々慣れて来たなァ〜」と間延びした調子で呟きます。確かに1度経験すると、獣の死体に触れるコトに対する恐怖心はかなり少なくなりました。
比較的身体の小さな2頭はひとりで、大きな1頭はふたりがかりで軽トラの荷台に積み込みます。

ブルーシートをかけて、自治会長の農場へ運びました。
私は軽四で後をついて行きます。
例のおじいさん先輩猟師と、自治会の大先輩というか親父の幼馴染も3人来てくださいました。

自治会長の農園に着くと、獲物を解体するために必要な台と流水の確保を開始しました。
前回自治会長の罠にシカが掛かったトキにはそのままジビエセンターに持って行ったので、自分たちで捌くのは初めてです。
ちなみにこのトキ、山口県では初霜が観測されていました。よりによって…

…農場中の蛇口、ひとつ残らず凍りついて、水出りゃーせんじゃないか‼︎

…という状態。
自治会長が、なんとか農場へ分水する大元の栓から給水できるコトを確認し、そこへ解体するためにコンパネを敷き、解体した肉を切り分けるためのテーブルを設置しました。

ほんじゃ解体するか、という流れで、大先輩猟師のおじいさんが解体を始めます。
当然、という流れで、私は解体の手順を習うというポジションです。

コレ以降、イノシシの解体の手順の備忘録です。
エゲツない描写の連続技になるかもしれません。

まず、シシの首に沿ってナイフを入れ、頚椎を残してグルリと切り込みます。
そこへ、大先輩が長年使用している鉈を打ち込み、頚椎を断ち、頭部を切り離します。

(頭部を大先輩から「ハイ」と渡されますので、そっと受け取り、傍らの草の上に安置します)

首を切断した後はかなりの血が出ますので、一度流水で流します。
シシを前後脚がベタッと地に着く形で腹這いに置き、背骨に沿って首から尻までナイフを入れます。
首側から皮を剥ぐためにナイフを入れます。シシは脂が美味なので、できるだけ身に脂が付くように皮を剥いでいきますが、あまり皮を薄く剥ごうとすると今度は皮が身の方に残ってしまうので、要領よく作業していくことが重要です。

背から胴体側面にかけて皮が剥げたら、横倒しにし、左右それぞれ、前後脚の足首辺りにグルリとナイフを入れ、脚に沿って切り込みを入れ、脚の皮を剥ぎます。V字型の台があれば作業しやすいですが、ない場合には、誰かにシシの脚を掴んでおいてもらいましょう。左右片側ができたらひっくり返して反対側を剥ぎます。

脚の皮が剥げたら、肛門付近の皮を残し、皮を身体から切り離します。

脚を切り離します。前脚は人間の腕と同じで、鎖骨はあっても関節はしっかりハマっているワケではないので、骨格に沿ってナイフを入れると切り離すコトができます。
後脚は骨格に沿ってナイフを入れると、「丸」と大先輩猟師が呼んでいた箇所(大腿骨が骨盤にハマっている部分)に当たるので、骨盤側にナイフを進め、後脚を切り離します。

シシの胴体を、尻を下にして立て、首を切り離すトキに使用した鉈で胸骨を断ち、アバラをバキッと開きます。

ここで大先輩猟師が、シシの心臓の位置についてレクチャーして下さいました。
今文字にしながら吐きそうですが、不思議とそのトキには真剣に、なるほどシシでも心臓は左側、アバラの内側にあるのだな…と観察することができました。そして、止めをさす際の槍を突く位置・角度が大変重要であることを学びました。ちなみに今回、3頭中2頭は心臓に槍で突かれた痕が見てとれました。

内臓を取り除くために、首の所で断たれた食道の端を掴みます。コレを尻の方に向けて少しずつ引っ張りながら、手を腹腔内に入れ、内臓を離していきます。絶命して1〜2時間が経過していましたが、シシの内臓は温かいと感じました。
内臓を取り除く際に気をつけなければならないのは、膀胱と胆のうを傷つけないコトです。膀胱を傷つけると尿が出てきてしまいますし、胆のうを傷つけると苦い汁が出てきてしまいます。
今回、3頭中1頭、膀胱を傷つけてしまい、慌てて大量の水で流すハメになりました。
ちなみにこのトキ、大量の”内臓脂肪”が出ます。上手に取れば活用できるはずなのですが、残念ながら今回はその術がなく、内臓と一緒に動物のエサになりました。

内臓を取り除いたら、背身を取ります。いわゆる背ロースにあたる部分です。
背骨をガイドのようにしてなぞりながら、できるだけ大量の肉を背骨から切り離します。
皮の剥ぎ方が上手ければ上手いほど、背身に厚い背脂が残り、コッテリしたロースを楽しめます。

最後にアバラ、いわゆるスペアリブと、腰骨周辺からも肉を取り、解体完了です…
…と思ったら、大先輩猟師がアバラをひっくり返し、内側に張っている筋肉を「ココは”チマメ”と呼んでいる部位で、トリのササミのように脂肪もクセもない。獣の肉がダメなヒトでも大丈夫なヒトが多いから取っておきなさい」とアドバイスを受けました。

同じ作業を3頭に繰り返し、私には良い訓練になりました。
これから自治会長の罠に獲物がかかったトキ、必ずしも誰か経験のある方が捌くことができる、というワケでもないでしょう。
多分…次は思い出しつつ…にはなるでしょうが、時間をかければシシなら私ひとりでもできると思います。

今回は、大先輩と私が大まかに切り分けた部位を、自治会のオィさんが小さく分けて下さいました。
大先輩の話では、今でこそ狩猟は増えすぎた有害鳥獣駆除の意味合いもありますが、昔は猟師が皆で巻狩りに出て、大人数でもその日の獲物はイノシシ1頭というコトも珍しくなかったそうです。そんなトキ、全員に分け前が渡るよう、無駄なく捌く必要があり、

シシ(4×4)は16に分けんとつまらん

と言われていたそうです。
今日はそんな昔話や、イノシシの調理方法など、いろいろな話を先輩猟師や自治会のオィさんたちとしながら、獲物を捌きました。
「シシ肉あるよ」と自治会長の知り合いネットワークから人づてに聞いて肉を受け取りに来られた方も、「こうやって農場で近所のみんなで協力して、獲物を捌いて分け合う作業をするっていうのは良いコトですね…‼︎」と感激しておられました。
確かに、年末で忙しいから今日は難しいだろうけど、日頃の週末であれば、捌いては肉を調理して、少しずつ食べたり飲んだりしながら自治会の仲間と時間を過ごすのも悪くないだろうな…と思いました。

…ただ、私はガッツリ頂いた分け前のシシ肉を、自治会のオィさんらは全く持って帰ろうとしなかったコトが少々気がかりではありますが…。

そんなこんなで、携帯電話も忘れてドッキドキで帰宅した私を待っていたのは、午前中を私の実家で餅つきして過ごした妻子の「おろしポン酢モチ、美味しいよ‼︎」という笑顔でした。